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伝説のCM作家 杉山登志―30秒に燃えつきた生涯 [著]川村蘭太

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年02月12日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■爆発的な才能の発露から自裁へ

 リッチでないのに リッチな世界などわかりません ハッピーでないのに ハッピーな世界などえがけません 「夢」がないのに 「夢」をうることなどは……とても 嘘(うそ)をついてもばれるものです

 テレビCMの花形ディレクターだった杉山登志(とし)は、こんな言葉を残して1973年に自殺した。本書は、37歳で閉じた杉山の生涯を追いつつ、いまも衝撃力をもつ遺文の由来と意味するものをまさぐっている。
 石油会社のCM。「ノンビリ行こうよ俺たちは! なんとかなるぜ、世の中は」。そんな言葉が流れ、2人の男が両脇から古いダットサンを手で押して行く。高度成長期、モーレツ社員という時代の言葉に逆行する台詞(せりふ)と映像だった。締めは「車はガソリンで動くのです」。杉山は、こんな秀抜な「消耗商品」を年間八十数本も制作していた。
 画家を志したこともあったが、縁あってCM制作会社に籍を置く。ナイーブな、翳(かげ)りを宿した青年は業界の先駆者となってひた走る。
 名声、外車、酒と女。多くを手に入れつつ、亀裂と空洞は広がっていく。好きな作品はという問いに「ないですね」と答える。「いやだなあ、この職業は」とつぶやきつつ、「CMが当たる、当たらないは二の次だ。商品が美しくあればそれでよい」とも口にする。
 十数秒、あるいは数十秒の虚の世界。そこに、自身の逃げ場のない「生き方」をも込めていた。だから才能が爆発的に発露したのだろう。走り切って自裁する。それはもう〈自然〉とさえ思えてくる。
 著者は「事実」の確認というこだわりをもって鬼才の足跡をたどる。少々肩の凝るページもあるが、杉山への愛惜の念があふれている。仮構(バーチャル)がますますはびこる今日、遺(のこ)された言葉は消耗されることなく世をさまよっている。
    ◇
 河出書房新社・1995円/かわむら・らんた 45年生まれ。ノンフィクション作家。『黒澤明から聞いたこと』など。

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