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偶然の科学 [著]ダンカン・ワッツ

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2012年02月12日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■実験と観察で社会現象に迫る

 レオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザはなぜ有名か。いろいろと要因を挙げて説明を試みても、結局のところ、モナリザ的だから、といっているに過ぎないのでは?
 19世紀にはルーブル美術館でも目立たない絵だったモナリザは盗難事件を経て注目されるようになった。それがなくても同様の名声を勝ち得たのかどうか。
 つまり、本でも製品でも、大成功には偶然の要素が大きい。成功の要因をあれこれ探るのに知恵を絞るより、社会で起きていることをとらえて対応した方がいい。
 本書はこう説く。
 著者は、知り合いをたどれば、世界中のだれとでも6人目にはつながる「スモールワールド現象」を唱えて注目されたネットワーク研究者であり、社会学者でもある。主張の背後には、コンピューターとネットワークの技術が可能にした、大規模な実験や観察の結果がある。
 たとえばある曲が、同じ条件を備えた別の世界でも大ヒットするかどうか。シミュレーション結果は、曲の質より偶然の要素の影響の方が大きい、というものだった。
 いわば、実証的な社会学、だろうか。
 実験室に持ち込むことはおろか、直接観察も容易ではないのが社会現象だが、メールやツイッターは事実上、何千万、何十億という人々の情報の流れを暗黙のうちに追跡している。歴史上初めて、大きな集団や社会全体のリアルタイムの行動をかなり正確に観察できるようになったのだ、とする。
 とはいえ、社会学が、観測と理論によって、これから起きることを正確に予測する物理学のような科学になれるわけではむろんない。それでも、社会学者はようやく、「自分たちの望遠鏡」を手に入れたのだ。
 そこには私たちの社会や歴史の理解を劇的に変える可能性が潜む。刺激的な一冊だ。
    ◇
 青木創訳、早川書房・2310円/Duncan J.Watts 71年生まれ。米コロンビア大学教授(ネットワーク科学)。

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