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山本周五郎戦中日記 [著]山本周五郎

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年02月19日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■戦後作品につながる重い読後感

 伊藤整、高見順など作家たちの「太平洋戦争下の日記」に、新たに当時の中堅作家の日々の記録が加わった。といっても、実際には飛び飛びに書かれたもので、記録よりは記憶、あるいは覚悟を知るための日記と言っていい。
 ただ昭和17年4月、18年11月、それに19年10月から20年1月までは、ほとんど連日戦時下の生活やその戦争観などが書かれている。なぜだろう、と読み進むと答えが見えてくる。山本は「生死の観念」の超脱を目指すのだが、その覚悟が定まらずに、自らの心情を透視し続ける。「直接の目標を持たぬため」、妻子を守るなど「独善的な欲望」に捉(とら)われているためだと気づき、それがこの間の集中的な筆の運びとなっている。
 そして「次代の同胞に呼びかけるより他に救う道はない。生きてある限り、それを目標に仕事をする」(20年2月1日)との境地に辿(たど)り着く。戦争と作家の関わり合いを示す重い読後感に、ふと戦後の著者の作品が重なってくる。
    ◇
角川春樹事務所・1680円


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