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検事の本懐 [著]柚月裕子

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2012年02月26日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■検察官の本来あるべき姿を活写

 昨今、相次ぐ不祥事の発覚から、検察の世界を舞台にした小説、ルポが増えてきた。従来、絶対的正義の実現を標榜(ひょうぼう)し、ある意味で聖域化していたこの組織に、ほころびが出始めたせいだろう。
 本書も、当然その流れを意識したはずだが、露骨な検察批判が展開されるわけではない。むしろ、検察官はこうあるべきだという、前向きの姿勢に貫かれている。著者は、まだキャリアの浅い女性作家だが、こうした意欲的なテーマに取り組む姿勢は、評価されてよい。
 北国の架空都市、米崎市の地検に勤務する若手検事、佐方貞人が主人公を兼ねて、狂言回しを務める。物語はおおむね、佐方以外の人物の視点で語られ、そこから佐方の人物像を浮き彫りにする、という手法がとられている。例外は、苦境に陥った幼なじみの元恋人に頼まれ、トラブル解決に佐方自身が乗り出す第3話「恩を返す」一作のみ。ここでは、元恋人のほか彼女を恐喝する悪徳刑事、そして佐方の視点が交互に出てきて、サスペンスを盛り上げる。弁護士だった、佐方の亡父の事件にも触れられており、第5話の伏線になっている。
 第1話「樹を見る」、第2話「罪を押す」、第4話「拳を握る」はいずれも、証拠から明らかに有罪と思える事件を扱う。場合によっては、被疑者が自白までした事件に、佐方が疑問を呈して再捜査に乗り出すという構成をとる。警察捜査が、ややずさんすぎるきらいもあるが、佐方のねばり強さがよく出ていて、最後まであきさせない。
 第5話「本懐を知る」は、第3話で触れられた佐方の亡父の、過去の謎めいた事件を取り上げる。ルポライター兼先の視点で、その秘密がしだいに明らかにされる展開に、読みごたえがある。
 作品を重ねるごとに、佐方のキャラクターが明確になるように、期待したい。
    ◇
 宝島社・1500円/ゆづき・ゆうこ 68年生まれ。09年に『臨床真理』でデビュー。著書に『最後の証人』。

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