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3・11 複合被災/震災と原発―国家の過ち [著]外岡秀俊

[評者]斎藤環(精神科医)

[掲載]2012年03月11日

[ジャンル]人文 社会 新書

表紙画像

■この一年を忘れずにおくために

 「あの日」から今日で、ちょうど一年。
 時代を画する大文字の日付「3・11」を再び迎えて、テレビも雑誌も一斉に震災特集を組んでいる。しかしあまりの情報過多で、被災の全貌(ぜんぼう)はむしろぼやけてしまってはいないか。
 著者は朝日新聞の記者をながく勤め、いよいよ退職という年に震災に遭う。やもたてもたまらず現地へ向かい、フリーランスの記者として何度も被災地を歩き取材を重ねた。その成果をまとめたものが『3・11 複合被災』だ。
 震災、津波、原発事故が複雑に重なった被災状況、自治体や政府の対応、今後の課題などがコンパクトにまとめられ、「3・11を後世に伝える本」という著者のねらいは十分に成功している。
 とりわけ自治体間の相互支援や、災害対策基本法の諸問題など、全体の構図を理解することで位置づけがはっきりする問題がいくつもあった。現場の人々の生々しい証言は、「無名の人のえらさ」が日本を支えている、という中井久夫の言葉を裏付ける。
 地を這(は)うような取材の一方で、著者は「3・11」の形而上(けいじじょう)学的な意味を思索していた。その航跡が『震災と原発』だ。被災のもたらす不条理が、さまざまな文学作品と重ね合わせて論じられる。
 本書は、良質なブックガイドでもある。声高なジャーナリストにはカミュ『ペスト』を、矛盾した政令で自治体を混乱させた政治家にはカフカ『城』を、デマで人々の不安を煽(あお)る運動家にはモラン『オルレアンのうわさ』を読ませたくなるからだ。東北に生まれた評者としては、何をおいてもノーマン『忘れられた思想家—安藤昌益のこと』を読まねばなるまい。
 情緒を抑制した文体は、その行間にジャーナリストの良心をにじませている。ありえないほど長かったこの一年を忘れずにおくためにも、いま読んでおきたい二冊である。
    ◇
 『複合被災』岩波新書・903円、『震災と原発』朝日新書・819円/そとおか・ひでとし 『地震と社会』など。

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