書評・最新書評

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 [著]大鹿靖明

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2012年03月11日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■あの時何が為されなかったのか

 あのとき何が起こり、何が為(な)されたのか。本書を読み、自分の不明を恥じ、ついで慄然(りつぜん)とさせられた。
 地震直後、まずは安堵(あんど)があった。緊急炉心制御装置が作動し、福島原発はすみやかに停止したと。しかし、4号機タービン建屋の地下に点検のため降りた、二人の若い原発従事者は二度と帰ってくることがなかった。高さ15メートルにも達する津波が、防潮堤を軽々と乗り越え、二人を濁流の中に呑(の)みこんだのだった。全交流電源喪失。
 午後3時42分、吉田昌郎所長は原子力緊急事態が起きかねない状況に陥ったと判断した。周辺住民を避難させなければならない最悪の事態。ところが、実際に首相が宣言を発したのはそれから3時間以上あとのことで、3キロ圏内の住民に避難指示が出たのはさらに2時間後のことだった。すでに炉心はむき出しになりつつあった。
 時系列を追って克明に記される発言、引用にはすべて巻末に典拠が付されている。「私」という主語を徹底的に排した調査報道。官邸、経産省、東京電力、学者たちの狼狽(ろうばい)ぶりとその間に繰り広げられた壮絶かつ不毛なバトル。1号機爆発の映像を見て班目春樹・原子力安全委員会委員長は「うわーっ」とうめき、頭を抱えたという。「これが日本の原子力の最高の専門家の姿なのか」。統治機能の不全と判断の溶融。文字通り日本はメルトダウンしていったのだ。
 私は事故後、関係者が次のようにひとりごちるのを聞いたことがある。もしタイムマシンに乗って過去に戻り、来る3月11日に何が起きるかを絶叫したとしても、誰一人耳をかす者はなかっただろうし、いかなる対策も取られなかっただろうと。
 あのとき一体、為されるべきことの何が為されなかったのかを知るための一級資料として、本書は今後長い期間にわたって参照されつづけることは間違いない。
    ◇
 講談社・1680円/おおしか・やすあき 65年生まれ。雑誌「アエラ」記者。『ヒルズ黙示録』『堕ちた翼』など。

関連記事

ページトップへ戻る