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動物が幸せを感じるとき―新しい動物行動学でわかるアニマル・マインド [著]T・グランディン、C・ジョンソン

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年03月11日

[ジャンル]人文 科学・生物

表紙画像

■充足した生をいかに与えるか

 人間は動物の支えを受けて「人間」たりえている。「食料にされる動物と人間との関係は、共生」との信念を持つ動物学者が、では個々の動物が本来の感情が尊ばれ、気持ちよくその生を終えているのかと問い、それぞれの性格を把握して彼らに充足の生を与えなければならないと説くのが本書の主題である。
 人間も動物も「脳の基礎となる情動システムは同じ」である。それ故に探索、怒り、恐怖、パニックと欲情、保護、遊びの七つの情動を尺度に動物を見ていけば、彼らと円滑な関係が成立する、というのだ。彼らとは本書では、犬、猫、馬、牛、豚、鶏などを指すのだが、野生動物や動物園の項では我々が知る動物の大半を採り上げているので、大体の動物の情動システムを知ることができる。
 例えば、犬のパニックは分離不安に根ざしていて、まさに飼い主との共存こそが重要と説くのだ。猫は恐怖の時に、ともかくその場を逃れようとし、その恐怖の記憶はいつまでも残るのだそうだ。馬の主要な情動も恐怖なのだが、前頭葉が大きく、かなり賢い動物で、調教には気を使わなければならない。虐待を忘れず、それが怒りに転化した時は、必ず仕返しもある。好奇心の強い動物は豚であり、探索の能力も発達している。鶏は社交性があり、親子の関係が極めて密という。
 役牛は人間に慣れるが、肉牛は慣れない。畜産従事者は牛がどういう動物かを知らずに、大声を出してストレスを与えている。米国の畜産、養豚、養鶏などの従事者がいかに暴力的で無用の恐怖を与えているか、著者はそのことについて心底から怒っている。
 共生のために動物の情動を理解すべきで、常同行動(異様な反復行動)の多くは動物が苦しんでいる状態なのだから、見落とすなと助言する。五感に優れた動物の感情を謙虚に受け入れ、我ら人間は動物の支えに感謝すべきである。
    ◇
 中尾ゆかり訳、NHK出版・2310円/T.Grandin 米・コロラド州立大教授 C.Johnson 著述家

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