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プロメテウスの罠―明かされなかった福島原発事故の真実 [著]朝日新聞特別報道部

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年03月18日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■腹立たしい官公庁の愚民観

 3・11を検証する「プロメテウスの罠(わな)」は本紙連載中であるが、第6部までが本となった。福島県浪江町で放射能汚染に遭遇した避難民たち、研究者たちの奮闘、官邸の混乱、チェルノブイリで起きたことなどが収録されている。
 未曽有の地震と津波だった。現場の混乱と混迷も当然であるが、検証記事を読むとあらためて、なぜに、という思いが深まる。現地の放射能汚染のデータは随分と収集されつつ、現地住民への伝達はまったく遅れた。正確な情報をもっとも必要とし、いち早く伝えられるべき住民はないがしろにされていた。
 官公庁は事実を伝えることになぜこんなにも臆病なのか。「パニックを恐れ」という“愚民観”は腹立たしい。たとえ小パニックが起きようと、事実の伝達こそより大きな利益にかなうものであるはずなのに。職を賭して観測業務を続け、あるいはデータ開示を行った技術者や研究者がいたことが救いである。
 放射能の広がりと影響をキャッチする「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測システム)なるものがある。放射性物質は風向きや地形に影響されつつ、複数の突起を形づくって拡散していく。福島でも予測通りの広がりを見せたが、汚染濃厚地域にはそのことも知らされなかった。官邸中枢はシステムの存在自体を知らず、ただ同心円状に避難区域を拡大していった。外部および内部被曝(ひばく)の影響がはっきり判明するのは今後であるが、そのとき取り返しのつかぬ罪をだれが担うのか。
 3・11はメディアのあり方を問い直す契機ともなった。第一報と直後の報道はもちろん大事ではあるが、「出来事の細部にこだわりつつ」「分かりやすく事実をもって事態を語らしめる」調査報道は負けず劣らず大切である。この分野はメディアの中で新聞がもっとも力を発揮しうる領域でもある。連載の息の長い取り組みを期待したい。
    ◇
 学研パブリッシング・1300円/同名の連載記事のうち、2011年10月3日から12年2月6日分までを収録。

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