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めぐりあい―映画に生きた熊井啓との46年 [著]熊井明子

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年03月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■夫と描く 戦後日本の「魂の記録」

 本書は戦後日本の「魂の記録」と言えるのではないか。読み進むと分かってくるのだが、生の意味と真摯(しんし)に向き合う人には、必ずそれに応分の伴侶から師、さらには畏敬(いけい)する先達との出会いがあり、本人の知性も感性もより深化していくということであろう。
 この「魂の記録」は、映画監督熊井啓との合奏により築かれるが、熊井映画ファンとしては、あのシーンはそういう意味があったのかなどの裏話も分かり、改めての感動がある(例えば「愛する」など)。一本の映画に賭ける映画人は、自らの地肌をさらけだして闘うが、その支えに徹した妻の目は、実は真贋(しんがん)を見極める目を持つに至ることが感得できる。
 田中絹代の言、宇野重吉のさりげない心遣い、黒沢明の本音、録音技師太田六敏の支えなど、著者は映画人や作家の素顔を克明に語り続ける。
 純愛という語が生きていた時代から夫の死、その後の心情、同世代としては心洗われる作品である。
    ◇
 春秋社・2100円

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