「生老病死の図像学」書評 中世の仏教絵画を読み解く
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2012年03月18日
生老病死の図像学 仏教説話画を読む (筑摩選書)
著者:加須屋 誠
出版社:筑摩書房
ジャンル:新書・選書・ブックレット
ISBN: 9784480015372
発売⽇:
サイズ: 19cm/292p
生老病死の図像学―仏教説話画を読む [著]加須屋誠
絵は写実である——現代人の多くはそう考えがちだ。もちろん、鎌倉時代の絵を観(み)て当時の人々の風俗を知ることはできる。しかし、それが絵のすべてと思ったら大間違い。以前『ダ・ヴィンチ・コード』という小説や映画がヒットしたとき、絵に隠された意味を読み解く教授が主人公だったことを思い出してほしい。画面に描かれたモノには、象徴的な意味があるのだ。
本書は、中世の仏教絵画を題材に、隠された意味を読み解いてゆく。この方法についてはプロローグに詳述されるが、敢(あ)えて第一章から読むことをお奨(すす)めする。「生老病死」とは仏教の言葉で、人間に平等に訪れる四つの苦のこと。なぜ老人は子どもと一緒に描かれるのか、出産や死を中世人はどうとらえていたかという疑問が、絵の具体例にそって解明されてゆく。読後、プロローグに戻ると、「絵を読む」理論が頭に入りやすい。
著者の仮説が先走りする傾向があることと、モノクロ図版が見づらいのが残念だ。
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筑摩選書・1890円