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楽園のカンヴァス [著]原田マハ

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2012年03月25日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■手だれの美術ミステリー

 この作品は、日本ではまだ数少ない、うんちくものの美術ミステリーである。
 ニューヨーク近代美術館のアシスタント・キュレーターで、画家アンリ・ルソーの研究家でもあるティム・ブラウンは、休暇を利用してスイスのバーゼルに飛ぶ。著名なコレクター、バイラーから秘蔵するルソーの未公開作品を鑑定してほしい、という招待状がきたのだ。それを、ティムは名前が1字違うやり手の上司、トム・ブラウンに届いたものと判断したが、絶好の機会を逃したくない一心で、トムになりすます。
 バイラー邸に着くと、そこにはもう1人同じ招待を受けた、優秀なルソー研究家の早川織絵がいる。2人はバイラーから、ニューヨーク近代美術館が所蔵する「夢」と同じ構図を持つ、未知の作品「夢をみた」を見せられる。バイラーが2人に与えた課題は、1冊の古書を交代で7日間読んだあと、問題の作品の真贋(しんがん)を判定せよ、というものだった。勝った者には、その絵をどう処分してもよいという、取り扱い権が与えられる。
 2人は、だれが書いたか分からぬ古書を、交代で読み継いでいく。そこには、ルソーのほかモデルの女性ヤドヴィガやピカソ、アポリネールなどが登場し、知られざるエピソードがつづられていた。その古書は、いったいだれの手になるものなのか。各章の最後に記された、ばらばらのアルファベットは、果たして何を意味するのか。
 こうした、ミステリアスな状況設定の中で、ルソーに関する逸話や、ピカソの友情秘話が、しだいに明らかにされる。著者は、本来ミステリー作家ではないはずだが、本作品の構成はまさに手だれのそれであり、終始飽きさせることがない。
 中でも「夢をみた」の真贋にまつわる謎解きは、十分に読者を驚かせるだろう。したがって、ここでは伏せておくことにする。
    ◇
 新潮社・1680円/はらだ・まは 62年生まれ。美術館勤務、キュレーターを経て作家。『カフーを待ちわびて』など。

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