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日本の精神医療史―明治から昭和初期まで [著]金川英雄

[評者]斎藤環(精神科医)

[掲載]2012年03月25日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■隔離されてきた精神病者

 本書は、精神医学史に関する類書の中でも飛び抜けてユニークだ。扱う時代は明治から昭和初期とごく短く、官報などからの引用が多い文章はいささか読みづらい。しかし斬新すぎるその切り口で、最後まで一気に読ませる。
 特異な点は二つある。第一に、精神医療を隔離・監禁の歴史としてたどっている点。それゆえ感染症の隔離政策に関する記述も多い。第二に、本書の約半分が朝鮮半島における西洋医学導入の歴史に割かれている点。とりわけ韓国の精神医療史のこれほど詳しい紹介は、私が知る限り本書が初めてだ。
 著者はまず、わが国の精神医学の礎を築いた東京帝国大学神経病学講座の教授・呉秀三と樫田五郎の著書『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其(その)統計的観察』(1918年)を詳しく紹介する。
 この本に記された、日本の精神障害者が「此(この)病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ、此邦ニ生マレタルノ不幸」を二重に被っている、という一文はよく知られている。これは精神障害者の「私宅監置」(「座敷牢」など)に対する告発だった。当時、精神障害者の処遇は警察の管轄だったのだ。
 呉は日本のみならずアジア全体の精神医療の向上を考えており、朝鮮半島の医療の近代化にも深く関わった。ただしそこには、西洋諸国から流入した「宣教医師」らの活躍も大いにあずかっていた。
 セブランス医学校を設立したオリバー・エビスン、精神科を専門とする宣教医師マクラーレン、韓国での医学教育に尽力した沈浩燮(シムホソプ)や李重テツ(イジュンチョル)といった、知られざる偉人たちが活躍する第4章は、本書最大の読みどころである。
 呉の悲願だった精神科病院の建設は、戦後大いに進んだ。座敷牢は消えたかわりに、精神科病床数は約35万床と先進諸国中でも際だって多い現状がある。「此邦ニ生マレタルノ不幸」は、いまだ過去形ではない。
    ◇
 青弓社・2100円/かねかわ・ひでお 東京武蔵野病院外来部長、了徳寺大学兼任講師。『精神病院の社会史』

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