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オバマを読む―アメリカ政治思想の文脈 [著]ジェイムズ・クロッペンバーグ

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2012年04月01日

[ジャンル]政治 社会 国際

表紙画像

■「哲学せしめる政治家」の背景

 弱腰で優柔不断——米国内でオバマ大統領をそう批判するのは保守派に限らない。議会多数派を擁しながら野党に妥協を重ねる姿はリベラル派をも失望させた。議会がねじれ、大統領選を今秋に控えた現在でさえ、オバマ氏は党派的な中傷攻撃には抑制的だ。
 それは一体なぜか。
 むろん、したたかな政治的な思惑や打算はあろう。しかし著者は、この問いを手軽な政治解説に落とし込むことなく、より広い米国の思想史的文脈のなかで再考する。
 例えば、挑発や対立よりも和解や調停を重んじるオバマ氏の政治手法には、米国的なプラグマティズムの伝統が見て取れるという。
 実用性や効率性を重んじる即物的思想と矮小(わいしょう)化されがちなプラグマティズムだが、その根底には、原理の絶対性や真正性への懐疑がある。つまり、ある原理が正しいか否かを競い合うことよりも、原理の対立をいかに回避するかが重要だとする視点だ。
 もっとも、中庸や熟議を重んじる姿勢や、プラグマティックな手法がつねに“正しい”判断を導くかは微妙だ。民主主義に伴うこうした不安や危うさにオバマ氏はどう折り合いをつけるのか。中庸や熟議を拒む原理主義的な立場に対してどう向き合うのか。
 著者は、オバマ氏の著書や演説はもちろん、親近者らの証言を豊富に交えながら、同氏の思考が紡ぎ出された背景や文脈を鮮やかに照射してゆく。とりわけロールズやニーバー、ギアーツらを引きながら、1980年代以降の知的変動が同氏に与えた影響を論じた第2章は秀逸で、巷(ちまた)にあふれるオバマ論とは明らかな一線を画している。
 より保守的な思想史解釈に立てば、オバマ氏の位置づけもまた異なったものになり得よう。しかし、少なくとも、著者のような米思想史研究の第一人者をして哲学せしめるほどの政治家が彼の地にいることを羨(うらや)ましく思う。
    ◇
 古矢旬・中野勝郎訳、岩波書店・3675円/James T.Kloppenberg 51年生まれ。ハーバード大学教授。

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