書評・最新書評

森林の江戸学 [編]徳川林政史研究所

[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)

[掲載]2012年04月01日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■日本の山、どう再生させたか

 戦後の復興期から高度経済成長時代には、目の前の利益だけを考えた量産、拡大政策が推進された。その結果、原子力のみならず多くのものが問題を抱えている。そのひとつが「森林崩壊」である。
 森林の過剰伐採が起こり、奥地の開発と人工造林が進められ、広葉樹林からスギ、ヒノキなど針葉樹林へ転換した。雪で倒れてしまうスギやカラマツが豪雪地帯に植えられた。金儲(もう)けが先に立つと自然の摂理が分からなくなる。そして輸入木材の時代が来た。今度は手入れをしなくなり、森林崩壊が始まっている。
 そういう時代だからこそ、と刊行されたのが、徳川林政史研究所の長年の蓄積を集めた本書である。戦国時代から江戸時代のはじめまで、日本はやはり過剰伐採をおこなっていた。しかしその結果洪水や土砂災害が起こるようになり、幕府は「山川掟(さんせんおきて)」という達書を出す。草木の根を掘り返すことを禁じ、苗木を植えるように促したのだ。国土の保全と災害防止を念頭に置いた治水、治山に取り組んだのだった。
 諸藩も立木の伐採を禁ずる留山(とめやま)を定め、順番に伐採する輪伐制度を作り、盗伐には極刑でのぞみ、植林令を出すなどして、江戸時代に日本の山は見事に再生する。「国の宝は山也……山の衰えは則(すなわ)ち国の衰えなり」と言い遺(のこ)したのは秋田藩家老である。林政論も出て、さらに具体的な技術を伝えるための山林書も出されるようになった。農民たちは、森林資源を枯渇させんばかりの材木商人の請負を一揆でやめさせ、農民自らが森林の手入れをした。
 本書は概説編と基礎知識編で編まれている。江戸時代の伐採道具から運搬方法、流通、樹木ごとの用途など極めて具体的で、自然とどのように関わって森林を再生させたのか、よく理解できる。
 さて、現代の私たちはどうすれば森林崩壊を止めることができるのだろうか?
    ◇
 東京堂出版・2940円。徳川林政史研究所は森林の歴史を研究する民間機関。執筆者は竹内誠同研究所所長ら8氏。

関連記事

ページトップへ戻る