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「自己啓発病」社会 [著]宮崎学

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2012年04月08日

[ジャンル]社会

表紙画像

■切り離せぬ「自助」と「相互扶助」

 1990年代以後「自己啓発」のための本がブームとなってきた。このような本は昔からあったように思えるが、著者によると、80年代に流行したのは「自己開発」のための本である。どちらも自己改造を説くものではあるが、「自己開発」書が、集団的拡大のための自己改造を説くのに対して、「自己啓発」書は、自己中心的でポジティブ思考を唱え、資格取得、スキル・アップなどを勧める。著者は、「自己開発」はバブル時代のイデオロギーであり、「自己啓発」はバブル崩壊後、特に小泉純一郎に代表される新自由主義とつながるイデオロギーであるという。
 バブルの頃まで日本の企業は終身雇用制をもつ一種の共同体であり、企業間にも談合制などの相互扶助的な共同体があった。これらを否定したのが、新自由主義である。以来、「自助」や「自己責任」という考えが支配的となった。それによって、福祉政策が縮小され、労働組合や各種の相互扶助システムが解体されたのである。その結果、人々は相互に切りはなされて無力になり、それぞれ「自己啓発」に励むのだが、いよいよ無力になるだけである。
 「自己啓発」書の著者らは自助の精神を説き、こぞってスマイルズの『自助論』を推薦する。この本は明治時代に『西国立志編』という題で翻訳(中村正直)されたが、近年読まれているのは新訳である。著者はこの本がどう読まれてきたかをふりかえることで、近代日本の社会的変化を見ようとする。スマイルズは労働運動や協同組合運動の支持者であった。つまり、彼にとって、自助の精神は相互扶助と切り離せないものなのだが、新訳では、このような部分が骨抜きにされている。
 ただ、著者は震災後の日本に、自助が相互扶助と両立するような可能性が出てきたという。つまり、国家に依存することなく、自助を社会的に結合していく可能性である。
    ◇
 祥伝社新書・798円/みやざき・まなぶ 45年生まれ。作家。『突破者』『談合文化論』など。

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