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歴史学者 経営の難問を解く/電力改革―エネルギー政策の歴史的大転換 [著]橘川武郎

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2012年04月08日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■「リアルな原発のたたみ方」とは

 『歴史学者~』と言っても、著者は応用経営史というジャンルを専門とする経済学者だ。産業ごとの歴史から発展のダイナミズムを探り、そこから今日的な問題の解決策を導き出す。その手法を携えて採り上げた業界は、電力や石油、金融、プロ野球など。なぜ成長しないのか。なぜ競争力に乏しいか。各業界の構造問題を分析して改革案を示す。
 残念ながらいくつかの業界の記述は紙幅の制約もあって物足りないが、「原発」と「電力システム」は別格だ。それもそのはず、著者は主要電力会社10社中7社の社史の執筆や監修にかかわったプロなのだ。電力王・松永安左エ門らの足跡から9電力再編の経緯や原発推進の歴史まで、背景を含めて熟知している。
 だからといって電力業界べったりの守旧的な意見でもない。むしろ業界が嫌がる電力自由化も、エネルギー安全保障のために進めるべきだ、という改革的な立場だ。
 原発では、使用済み核燃料の処理問題を根本的に解決できない以上「たたむしかない」と言う。ただしそのやり方はリアルであるべきだとして、2050年に原発ゼロを想定する。解決案はきわめて現実的だ。こうした点で、同じ主張を盛る新書判『電力改革』に著者の主張のエッセンスがあると言ってもいい。
 福島第一原発事故のあと、日本のエネルギー政策のあり方については、政府や有識者の間でも意見が割れている。いまだ答えが見いだせない、まさに難問だ。その折に重厚な業界分析を背景にした硬質の提案が出る意義は大きい。
 ただ、未曽有の原発事故で私たちは核のゴミ処理に数千年、数万年という気の遠くなるような時間を費やすことに気づかされた。仮に「リアルな原発のたたみ方」をすれば、核のゴミをあと数十年は増やし続けることになる。それは人類史的な歴史観からも許容されるものなのか。その点も聞いてみたかった。
    ◇
 『歴史学者~』日本経済新聞出版社・1995円、『電力改革』講談社現代新書・798円/きっかわ・たけお

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