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バナナの世界史 歴史を変えた果物の数奇な運命 [著]ダン・コッペル

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2012年04月08日

[ジャンル]科学・生物 社会

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■ヒトがつくりかえてきた生命

 バナナは、あのあまりにもあからさまなカタチにもかかわらず、かわいそうに、一度もセックスをしたことがありません。なぜなら、バナナはタネなしだからです。
 バナナの原種は、硬くごろごろしたタネがたくさん入ったとても食べにくい果物でした。ところが自然のいたずらで、あるとき、タネがないのに果実だけが太る突然変異種が出現しました。
 とはいえ、タネができない植物をいったいどうやって増やすことができるのか。バナナは地下茎を伸ばすので、これを株分けすると簡単に大規模栽培ができるのです。
 なかでもグロスミッチェルは優れた品種でした。大きくて皮が厚く、舌触りはなめらか、味は濃厚でフルーティー。これに目をつけた米国資本が中南米に大規模なプランテーションを作り上げました。グロスミッチェルは売れに売れました。しかし、その背後には乱開発と過酷な労働搾取がありました。
 ところが突然、大きな災難が降りかかったのです。ある種のカビがとりついてグロスミッチェルを枯らせはじめました。パナマ病です。グロスミッチェルは株分けで増えた単一クローン植物。多様性のない性質は、いったん崩壊するとひとたまりもありません。パナマ病はグロスミッチェルを滅ぼしてしまいました。
 かわりに現在、私たちが食べているのはキャベンディッシュという品種です。しかし単一品種・大量消費という構造は変わっていません。病原体の方も進化して新パナマ病が出現しています。バナナの未来はどうなるのでしょうか。
 人口爆発を支える有用な生物資源。それをあまりに恣意(しい)的に利用してきた人類。ヒトがつくりかえた生命に対しヒトはどのように責任をとるべきなのか。バナナをめぐって、私たちの生命観・世界観を問い直す好著です。
    ◇
 黒川由美訳、太田出版・2415円/Dan Koeppel 科学、自然などが専門のジャーナリスト。

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