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ヘルプ 心がつなぐストーリー [著]キャスリン・ストケット

[評者]小野正嗣(作家・明治学院大学准教授)

[掲載]2012年04月15日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■声なき者の声で、境界線越える

 60年代前半のアメリカのミシシッピ州。2人の女性の出会いが物語の核となる。白人の裕福な家庭で家政婦、つまり「ヘルプ」として働く黒人女性エイビリーンは一人息子をなくしたばかりだ。一方、作家志望の白人女性スキーターは大学卒業後帰郷した家で驚くことになる。自分をわが子のように慈しみ育ててくれたヘルプ、コンスタンティンがいないのだ。でもどうして?
 折しもスキーターの友人で、地元の有力者ヒリーが「ヘルプ衛生法案」をぶちあげる。黒人が白人と同じトイレを使うなんてもってのほか、各家庭にヘルプ用の便所を設置すべし!というのだ。それに異を唱えるスキーター。できもしない家事の相談欄を引き受け、エイビリーンの知恵を拝借してコラムを執筆していた彼女に一つのアイデアが芽生える。ヘルプたちに取材し、その目から見た白人家庭を語ってもらったら?
 エイビリーンは躊躇(ちゅうちょ)する。白人家庭の内情を下手に口にすれば、クビにされ、それどころかリンチにあいかねない。南部ではまだ人種差別が猖獗(しょうけつ)を極めている時代なのだ。
 だが白人の専横による友人たちの不幸に決意する。白と黒、上流と貧乏を分け隔てる境界線、「それはあたしたちの頭の中にしかないんだよ」と言うエイビリーン。その言葉に動かされ、彼女の陽気な親友で、ヒリーに目の敵にされてきたミニーも、この件に関しては重い口を開き、ヒリーのパイにものすごいもの(さて何でしょう?)を混ぜたことを告白する。そこに次々と他のヘルプたちの声が加わっていく。コンスタンティンが去った理由も明らかに……。
 白人である作者が黒人の声で語ることには相当な覚悟がいったはずだ。だが声なき者に声を与える、あるいは返すのが文学なら、勇気をもって境界線を越えねばならないこともある。これは言葉を、言葉が人を支え、助けることを、強く信じる物語だ。
    ◇
 栗原百代訳、集英社文庫・上720円、下680円/Kathryn Stockett 本書がデビュー作。


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