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蘇童「河・岸」書評 文革期の不条理を浮き彫り

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2012年04月15日
河・岸 (エクス・リブリス) 著者:蘇 童 出版社:白水社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784560090206
発売⽇:
サイズ: 20cm/369p

河・岸(かわ・ぎし)

 文化大革命の時代を描きながら、これほど人間味豊かな物語が中国にあったのか、と驚かされる。蘇童(1963〜)は現代中国を代表する作家の一人。チャン・イーモウ監督の映画「紅夢」の原作者である。
 舞台は江南の町油坊鎮。庫文軒は革命の犠牲になった女性の英雄の息子とされ、町の権力者だった。今ではその血統を否定されて陸の世界を追われ、「空屁(すかしっぺ)」というあだ名をもつ息子の東亮と一緒に河で船上生活を送る。その波乱に富んだ日々が東亮の目で回想される。父子の暮らす「河」の世界と、それを虐げる「岸」の世界とが対比して描かれ、文革期に民衆が強いられた不条理が浮き彫りになる。
    ◇
 飯塚容訳、白水社・2835円