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解任 [著]マイケル・ウッドフォード/サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件 [著]山口義正

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2012年04月22日

[ジャンル]社会

表紙画像

■企業の闇に迫る、内外からの闘い

 昨秋、内視鏡シェア世界一の国際的優良企業、オリンパスで組織的な巨額粉飾事件が表面化する。しかもその発端は、国際企業の証しと評価されてきた英国人社長の突然の解任劇だった。そしてこの2月、元会長はじめ粉飾事件にかかわった関係者7人が逮捕され、事件は一応の決着を見る。
 2冊は事件の「主役」2人の回顧録である。1人は電撃解任された元社長ウッドフォード。もう1人はこの疑惑をスクープしたジャーナリスト山口義正だ。どちらが欠けても、おそらく元会長逮捕という顛末(てんまつ)に行き着かなかった。
 山口はオリンパス社員である友人からのリークを端緒に単独で疑惑取材に乗り出し、ついに昨夏、月刊誌で疑惑を世に問う。ウッドフォードはその記事を読み、社長である自分でさえ知らされていない会社の闇があることに気づく。
 そこから2人の苦闘のドラマが始まる。山口があげた疑惑追及の火の手は大手メディアに広がらない。ウッドフォードは会長ら日本人経営陣に説明を求めるが相手にされず、揚げ句の果てに取締役会から解任される。
 二つの回顧録は図らずも一対のプロットのようだ。別々の視点から同時進行で描いたミステリー小説のようなのだ。主役2人がもがき苦しみながらも、オリンパスという迷宮の秘密を内と外から次第に暴いていく物語である。
 2人は自ら見聞きした事実を可能な限り時系列を追って、正確に克明に描いている。ときに感情を抑えきれなかったり、想像をたくましくしたりした部分もあるが、全体として努めて抑制的だ。それがかえって真実を伝えたいという情念となって迫る。
 意外なのは、お互いが心の支えとしあった2人の対面は、事件の渦中では記者会見後の控室でわずか20分間、それもたった一度きりだったことだ。
 闇を仕切る実力会長はなぜ露見や反逆のリスクを冒してまで外国人社長を抜擢(ばってき)したのか。そこが不思議だったが『解任』で疑問が解けた。隠れ損失を秘密裏に解消するには、早く財務を改善したい。それには稼げる優秀な外国人社長を「雇う」必要があったのだ。
 巻末で2人が投げかける言葉はよく似ている。事件は本当に終わったのか、という問いだ。日本全体に同じ問題が起きていないか。銀行や監査法人に責任はなかったか。反社会的勢力の闇はもっと深くないのか、と。
 マスコミ批判も共通している。2人が危険を冒し、事件と格闘している当初、マスコミが長く沈黙したことが、いかに彼らをしょげさせたか。それは新聞人の一人として、きわめて重く、適切な指摘だと受け止めざるをえない。
    ◇
 『解任』早川書房・1680円、『サムライと愚か者』講談社・1470円/Michael Woodford 60年生まれ。オリンパス元最高経営責任者、やまぐち・よしまさ 67年生まれ。本報道で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞。

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