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少女は卒業しない [著]朝井リョウ

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2012年04月22日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■乙女っぽさに、かつがれる快感

 まんまと、一杯くわされた。と思ったが、考えてみれば、私がまぬけで調査不足だったのである。
 まず、タイトルに惑わされた。著者名にも、早合点した。坂本龍馬の妻の龍の字を、無意識に当てていた。何より、表紙の、女高生の横顔写真である。さすがに、作者その人のポートレートとは思わなかったが、書き出しの文章が、いかにも乙女っぽく、描写が女性らしい。登場する小道具が、まず男は気がつかない物ばかりで、たとえば、髪をまとめるピンクのシュシュなど、名称さえ覚つかない。
 連作の短編集だが、どれも、高校の女生徒が語り手である。この高校は一年から三年まで、クラス替えがない。今日が、卒業式である。そして明日は、合併のため廃校となり、取りこわされる。
 卒業式当日の早朝から夜まで、まる一日の物語である。
 特別、変わった生徒がいるわけでない。
 ある女生徒は、図書室の貸し出しカウンターに、金曜日だけ座る男先生が好きになってしまった。彼女の場合、図書室の雰囲気が、そういう感情にさせたのかも知れない。静かにしていなければならぬ所だから、小声で話す。先生と話す時は、うんと顔を近づけて、ささやく。当たり前の話をするのだが、秘密めかしい。彼女は当たり前でない話がしたい。
 計画する。卒業式の朝、先生とたった二人きり、図書室にいる。本はすべて運びだされていて、書棚しかない。本の無い図書室。誰もいない図書室は、別に大声でしゃべっても咎(とが)められない。だから、女生徒はとまどってしまう。
 作者は男ですよ、と知友に笑われた。書評家失格である。でも、大方の読者は何の知識も持たず、本を選ぶだろう。私のように間違っても、書物の世界では許されるだろう。だまされる喜び、かつがれる快感。これも良質の小説ならでは、だ。
    ◇
 集英社・1365円/あさい・りょう 89年生まれ。『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞。

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