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批評とは何か [著]T・イーグルトン/M・ボーモント

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)

[掲載]2012年04月22日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■率直に語る、総括にして入門の書

 いったい、どのくらいの時間をかけたのだろう。本書を手にして、まずそう思った。何しろ、五〇〇ページ近い長大なインタビューなのだ。何週間、何カ月? とにかく時間をかけてじっくりと話を聞き、イーグルトンのこれまでの批評活動をふりかえりながら現時点での総括をはかろうとする、用意周到な本である。
 「文学とは何か」「文化とは何か」「宗教とは何か」という、「何か」シリーズの邦訳タイトルで知られる(とはいえ、原題がこのような問いの形になっているわけではない)イーグルトン。多作で、幅広い関心を持ち、現在も精力的に発言を続けている。彼の半生については自伝『ゲートキーパー』があるが、ほぼ大学時代までの記述で終わっており、その後、研究者としてさまざまな妨害を受けつつもどのように道を切り開いていったかについては、本書の語りで初めてわかることも多い。貧しい労働者の家庭に生まれ、保守的なカトリック的環境で育った彼が、世界的に有名なマルクス主義の文芸批評家になっていく過程は興味深い。
 インタビュアーのボーモントはイーグルトンの著作をよく読み込み、うまく論点を整理している。イーグルトンを肯定するばかりではなく、疑問に思ったことは鋭く突っ込み、彼の人物に迫る反応を引き出している。たとえば、なぜヴァージニア・ウルフをモダニズムの正典から外したのかと問われたイーグルトンは「私は恥知らずな無知の輩(やから)だったのです。一九七〇年の時点では間違いなく」と素直に誤りを認めている。あるいは、自分を攻撃する批評家の名前を出されて「こうした哀れな連中の中には、自分自身の本を、君がまだオムツを当ててもらっていた頃から一冊も出していない者もいるのだよ」とチクリと皮肉ったりもする。率直な物言いが魅力的だ。索引や文献リストも充実しており、イーグルトンの仕事を知る上で格好の入門書。
    ◇
 大橋洋一訳、青土社・5040円/Terry Eagleton 批評家▽Matthew Beaumont 文学研究者。

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