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イスラムを生きる人びと―伝統と「革命」のあいだで [著]川上泰徳

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2012年04月29日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■多様な姿、社会の内側から照射

 94年から17年間にわたる中東情勢の取材をまとめた、本紙記者による現地ルポ。
 エジプトを軸にしながら、イスラム教徒としての多様な生き方を社会の内側から鮮やかに照射する。
 「アラブの春」後の中東情勢の鍵を握る「ムスリム同胞団」の実態。女性割礼や臓器移植など「伝統」をめぐる葛藤や確執。離婚仲裁や被災支援に見られる人びとの知恵や工夫。新鮮かつ濃密な情報にあふれている。
 いつの間にか欧米メディアのバイアスや過激な事件報道に引きずられがちだった自分に気付く。
 イスラム世界を危険視する不幸な誘惑は根強く残るが、「欧米や日本と同様にテロや暴力に直面している社会として理解し、ともに解決策をさぐる仲間として関わっていくことはできるはずだ」という著者の言葉を信じ、心に深く留めておきたいと思う。
 歪(ゆが)んだ他者理解からは歪んだ自己理解しか生まれないのだから。
    ◇
 岩波書店・3045円

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