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フランコと大日本帝国 [著]フロレンティーノ・ロダオ

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2012年04月29日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■イメージの変遷鮮やかに

 第2次大戦のヨーロッパ戦線で、日本は銃こそ手に取らなかったものの、中立国においていわゆる武器なき戦い、すなわち外交戦、情報戦を展開した。その一つが、本書の舞台となったフランコ総統治下の、スペインである。
 フランコは、第2次大戦の半年前に終結したスペイン内戦で、ヒトラー・ドイツとムッソリーニ・イタリアに、多大の援助を受けた。その恩義もあり、大戦中は終始中立を保ちながら、さまざまな面で独伊に協力を惜しまなかった。そのため、独伊の同盟国たる日本に対しても、当初から好意的な態度を示していた。
 本書はまず、セラーノ・スニェル外相が駐西公使須磨弥吉郎の要請に応じて、英米でのスパイ活動を組織展開するため、アルカサル・デ・ベラスコなる人物を紹介したいきさつを、詳述する。その組織が収集した情報は、〈東情報〉と名づけられて、日本へ送られた。もっとも、今ではそれらがおおむね英米の手で傍受、解読されていたこと、またほとんどが二重スパイによる無価値情報か、でっち上げによる虚偽情報だったことが、明らかにされている。
 日本に好意的だったスペインも、長年その影響下にあったフィリピンで、日本軍が彼らの権益を無遠慮に侵したことから、しだいに態度を硬化させる。ことに、戦況が連合軍に傾いてからは、日本との関係を断つことによって、英米の歓心を買おうとする。本書は、その経緯に多くの筆を費やして、スペインないしフランコの抱く〈日本のイメージ〉が、どのように変化したかを、鮮やかに描き出す。
 従来、戦時中の日本とスペイン(を含む欧州)の関係を、本格的に取り上げた研究書はなかっただけに、本書の価値は大きい。著者は、戦時中の日西関係を研究するため、東京大学大学院に留学して、博士号を取得した気鋭の学者である。この労作の翻訳を、心から喜びたいと思う。
    ◇
 深澤安博ほか訳、晶文社・5775円/Florentino Rodao 60年生まれ。マドリード・コンプルテンセ大学教授。

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