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望遠ニッポン見聞録 [著]ヤマザキマリ

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2012年04月29日

[ジャンル]社会

表紙画像

■世界で感じた「おしん」な私

 我慢強く、感情を滅多(めった)に露(あら)わにせず、一億人が総「おしん」、というのは外国人が思う日本人(=おしん)像である。17歳の時イタリア留学したことをきっかけに、以来海外で暮らす著者だが、3・11の震災直後にイタリアで出会ったタクシー運転手に、「あなた達(たち)は本当に素晴(すばら)しい。私達イタリア人には、とてもあなた達のマネはできない。でも、苦しい時には暴れたり泣いたりしてもいいとワシは思うんだよ」と言われ、いささか複雑な心境になったという。
 海外経験が豊富で、英語を話したりするような日常をおくるという人を祖父に持ち、母親もミッションスクールで教育を受け、「日本だけが世界じゃないから」というのが口癖だったという。そんな外国文化が香る環境で育った著者なのだから、異国を見ても「異」だと気付かないのではと、読み始めに思ったのだが、全くの見当違いだった。
 元気かつ陽気、著者曰(いわ)く「矍鑠(かくしゃく)とした」イタリア人の姑(しゅうとめ)に関する章で、彼女の日本人らしさが際立つ。嫁の仕事など気にせず、迷惑な行動を繰り返す姑に呆(あき)れつつも、ひたすら忍耐し、愚痴一つこぼさなかった。
 「イタリアではご飯と言えば家族の大事な交流の場」だというご主人に対し、できればディスカッションを避けてご飯をゆっくり味わいたいと考える著者。やはり「だいたい日本の人達はディスカッションしなさすぎだよ」と指摘されてしまう。
 その一方、日本での仕事の中で、編集者によってインタビュー記事が、阿婆擦(あばず)れタッチの「外国人」風で喋(しゃべ)る口調に「加工」されるような目にあったりもする。
 イタリア、ポルトガル、シリア、アメリカ。宗教も文化も異なる国々での生活をふんだんに取り入れ、各章の終わりに、まとめとして漫画家らしくユーモラスな漫画を添える、——本書はそんな楽しい一冊だ。
    ◇
 幻冬舎・1260円/67年生まれ。マンガ家。「テルマエ・ロマエ」で手塚治虫文化賞短編賞、マンガ大賞2010。

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