書評・最新書評

2050年の世界地図―迫りくるニュー・ノースの時代 [著]ローレンス・C・スミス

[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)

[掲載]2012年05月06日

[ジャンル]国際

表紙画像

■北の高緯度地域「新しい中心」に

 2050年の世界を予測している。「ニューノース」は、北極の変化がもたらす高緯度地域の繁栄のことだ。占いの本ではない。ユーモアにあふれた面白い本だが、実はコンピューターモデルのもっとも手堅いシミュレーションのみを使っている。予測の柱として4つグローバルな力を立てた。第1は人口構造だ。現在の世界人口は約70億だが、2050年には92億ほどになる。第2の柱は食糧を含む資源の需要である。2050年の人々全員が今の先進国と同じくらい資源を使うのなら、世界の消費は11倍に跳ね上がる。第3は世界経済のグローバル統合である。そして第4は気候変動だ。
 もっとも気になるのは気候変動だが、しかしそれは変化をもたらす4つの要因のひとつでしかない。実はもっと深刻な問題がある。人口増加による水不足だ。水が不足すると食糧が不足する。人口増加に対応するためには穀物生産量を増やさねばならないのだが、栽培用の水の確保は難しい。気候変動は地球全体を被(おお)うわけではなく、地域によってばらつきがあることも知った。とくに北極が温暖化の影響を強く受けているので、カナダ北部やアラスカやシベリアではすでに世界平均の10倍のペースで温暖化が進んでおり、動物や魚やプランクトンが移動を始めている。今後も高緯度地方で温暖化が進み、降水量が増える。2050年までには生物種が最大37%絶滅するが、北の海には多くの種が入って来て繁茂する。
 北で増えるのは動植物だけではない。2050年までの人口増加率が最も高いのは予想どおりインドだが、その次はカナダ、アメリカ、アイスランド、ノルウェーである。北緯45度以北に新しい居住地が拡(ひろ)がるだろうと予測している。主要国の中で最も人口が減少するのは日本で、次はロシアだ。しかしこの増減率の意味が後に明らかになる。インド以外における増加は移民を含んでいるのである。ロシアと日本は移民に閉鎖的である現状を反映してもっぱら減少の数値になる。
 天然資源でも、これからはアラスカの石油とロシアの天然ガスが注目を集める。著者は、これからは国ではなく企業集団やNGOによる結びつきが、資源問題に関わってくると見ている。カナダ人とアメリカ人は南北ラインで結びつき始めており、北方先住民が気候変動や資源について主張を強めているのだ。気候変動や移民や自由貿易や経済のグローバル統合を条件として、次に世界の中心になるのは高緯度地域である、と著者は言う。が、その「新しい中心」誕生の裏で、多くの人びとが困窮するのも間違いない。
    ◇
 小林由香利訳、NHK出版・2940円/Laurence C. Smith 67年、米国シカゴ生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の地理学教授。北半球北部の氷河や氷床、永久凍土の融解が、土壌炭素や湖に及ぼす影響などを研究している。

関連記事

ページトップへ戻る