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仕事をつくる―私の履歴書 [著]安藤忠雄

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2012年05月06日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■そのエネルギーの源泉は何?

 数人の画家に訊(き)いてみるがいい。「あなたは誰のために絵を描くのか?」。「世のため、人のため」と答える者はほぼいないだろう。霊感を与えてくれるその源泉に対して奉納の気持ちで描く、なんて受けを狙う変わり者は別として、大方は「自分のため」と答えるに違いない。
 しかし、ここに世界を舞台に活躍する一人の著名な建築家に同じ質問をしたら「自分のために建てる」とは言わないだろう。本書の著者はその質問に、胸襟を開いて熱く易しく答えてくれる。
 ボクサーの経験のある著者の行動と思想は借り物の観念ではなく、その肉体と自前の感性で、肉体派仕事師といわんばかりに仕事のある所、東奔西走、持ち前の野生魂でどこまでも本能に忠実であろうと行動する。
 「建築家になるんや」と決めれば即、一念発起、社会的ハードルは彼にはない。大学の建築教科書を手に入れ、4年間で学ぶところを1年で習得。独学安藤の面目躍如。僕も独学だが彼の〈鬼迫〉には負ける。
 エゴから入ってエゴを消滅、個の普遍に至るなんて、彼の前では馬の耳に念仏。個我と執着が彼を安藤忠雄たらしめているのだ。画家の内面追求に対して建築家安藤は肉体の皮膚を破って外界へと視座を移し、この混迷する日本の再建と対峙(たいじ)し、時間、空間、創造、行動を捧げる。ケチケチしないそのエネルギーの源泉は何? 日本の未来を託する子供への愛と希望?
 彼は才能ある人間を心底愛し、そしてその才能に対して謙虚であろうとする。友人、知人の能力を自らに移植し、換骨奪胎した他力を自力の知恵にしてしまう。3・11以後の日本を憂えると同時に未来と人を信じ、子供の教育に自然観の楔(くさび)を打ち込む。建築家を超えた存在の安藤を隠喩するならその精神は、画家が小乗なら彼は大乗仏教的というところかな。
    ◇
 日本経済新聞出版社・2000円/あんどう・ただお 41年生まれ。建築家。「住吉の長屋」で日本建築学会賞。

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