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アウンサンスーチー「新ビルマからの手紙」書評 明るく粘り強く抵抗する

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2012年05月06日
新ビルマからの手紙 1997〜1998/2011 著者:アウンサンスーチー 出版社:毎日新聞社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784620321196
発売⽇:
サイズ: 20cm/205p

新ビルマからの手紙/増補復刻版 ビルマからの手紙 [著]アウンサンスーチー

 現在ビルマ(「ミャンマー」は軍事政権側による国名であり、民主化勢力、ならびにそれを支持する者は「ビルマ」と呼ぶ)では補欠選挙で「国民民主連盟(NLD)」が過半数を超える得票をし、アウンサンスーチー氏の下院当選も認められた。かつても大量得票をしながらNLDは国政参加を拒まれたのだから、ビルマ情勢はだいぶ軟化してきたことになる。
 いまだ議会のほとんどが軍によって支配されているものの、日本を含む国際社会はこれまでの経済制裁を一気に緩和させ始めており、アジアの成長の中でビルマの位置は大変重要になってきている。
 そうしたタイミングで本書『新ビルマからの手紙』が出版された。アウンサンスーチー氏が毎日新聞に書き続けてきたエッセイで、同時に15年以上前にまとめられた『ビルマからの手紙』も“増補復刻版”で出ている。
 どちらにもビルマの季節の移り変わりが端正な文章で活写されていてみずみずしく、その分だけ時を問わずに襲いかかる弾圧の過酷さがひしひしと伝わってくる。
 「夜ごとに仲間が当局に連行されていた最悪の時代には、誰が消息不明になっているのかを確認することから1日が始まった」
 「ビルマでは2200人以上の政治囚が投獄されたままだ」
 だが、著者自身が何度も触れる通り、ビルマ民主化運動をになう人たちは“生来の明るさ”を持つという。逮捕を恐れずに集まるジャーナリストや民衆たちは決してユーモアを欠かさないのだ。絶望的な状況の中で笑いあう。その態度に人間の尊厳が響く。読む者に畏敬(いけい)の念を起こさせる。
 著者アウンサンスーチー氏の毅然とした姿勢、慎み深いまなざし、そして圧倒的な教養はむろんのこと、私たち日本人がビルマから学ぶべきはこの粘り強い抵抗の明るさではなかろうか。
    ◇
 土佐桂子・永井浩ほか訳、毎日新聞社・各1575円/増補復刻版は未収録2編を加えて、同時刊行した。