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世界が日本のことを考えている―3・11後の文明を問う――17賢人のメッセージ [編著]共同通信社取材班

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2012年05月06日

[ジャンル]国際

表紙画像

■国内言論に足りぬ視点想起

 3・11をめぐる海外の識者へのインタビュー集。「賢人もの」にありがちな欧米・男性・学者中心ではない、多様な人選がまず目を引く。
 例えば、アマゾン奥地で育ち、16歳まで読み書きができなかったにもかかわらず、ブラジル環境相まで務め上げた女性マリナ・シルバ氏。同じく極貧家庭に育ちながら「インドの核ミサイルの父」の異名を持つ科学者、のちにインド大統領となったアブドル・カラム氏。両者の主張は真っ向から対立する。
 イタリアの政治哲学者アントニオ・ネグリ氏が原子力を「リバイアサン(怪物)」に喩(たと)えるのは何故(なぜ)か。アイルランド人の政治学者ベネディクト・アンダーソン氏が震災後の日本に見出(みいだ)した「希望」のナショナリズムとは何か。環境活動家から思想家、映画監督、作家、詩人まで、錚々(そうそう)たる面々が世界各地から問いを投げかけてくる。
 それらは3・11後を論じる際のわれわれの視野狭窄(きょうさく)を自覚させるものであり、かつ国際社会へ向けた真摯(しんし)な回答を要するものでもある。
 その意味で、本書は「世界が日本のことをどう考えているか」というよりは、むしろ「日本が世界のことをどう考えているか」「日本がどう思考し、決断するか」を世界は注視している、と読まれるべきかもしれない。
 巻頭を飾るミャンマーの僧侶たちへのインタビュー。被災者への温かい言葉に触れながら、ふと思う。4年前に彼の国を襲い、約14万人もの犠牲者を出した巨大サイクローンについて、あるいは途上国で日々起きている惨事に対して、私たちはどれだけ無関心だったのかと。
 そうした共感の境界線を切り拓(ひら)いてゆくことも3・11の犠牲者の弔い方の一つに違いない。
 書き手も読み手も国内のみに目線が向かいがちな日本の言論空間から欠落しがちな視点を想起させてくれる。
    ◇
 太郎次郎社エディタス・2100円/インタビューは共同通信加盟社に2011年6月から10月まで配信。

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