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福島原発事故独立検証委員会調査・検証報告書 [著]福島原発事故独立検証委員会

[評者]姜尚中(東京大学教授・政治学、政治思想史)

[掲載]2012年05月13日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■「国策民営」の構造と病理を抉る

 本書を読み進みながら、まるで丸山真男の「軍国支配者の精神形態」(1949年)を読んでいるような錯覚に襲われた。例外状態によって照らし出される体制のデカダンスという点で、大日本帝国の戦争体制と「原子力ムラ」を中核とするレジームとの間には、数多くの類似点が見いだされるからだ。その病理を、本書の第3部「歴史的・構造的要因の分析」は、「安全神話」「原子力ムラ」「国策民営」をキーワードに鋭く抉(えぐ)り出している。なぜこのようなシビア・アクシデント(過酷事故)が起き、被害はどう経過したのか(第1部)、またそうした事態に対して官邸中枢や原子力行政、原子力事業者さらに現場はどのような対応をしたのか(第2部)、こうした点を理解する上で、あらかじめ第3部に目を通すことを勧めたい。
 「安全神話」とは何か。「原子力災害リスクをタブー視する社会心理を上部構造とし、原子力発電を推進する原子力ムラの利害関心を下部構造とする信念体系」のことである。「原子力ムラ」とは、「中央の原子力ムラ」(学界を含む原子力行政・産業)と「地方の原子力ムラ」(原発及び関連施設立地地域)のアマルガム(融合体)であり、それは国が原子力政策を推進し、電力会社が原発を商業運転する「国策民営」によって支えられていたのである。このレジームは自己欺瞞(ぎまん)と、リアリズムの欠如した「安全神話」の上に君臨し、多くの国民がそれを信じて疑わなかった。原発事故に対する危機管理体制の脆弱(ぜいじゃく)さや場当たり的な対応、規制当局や原子力事業者などの無責任体制と権限への逃避や責任転嫁、さらにリスクコミュニケーションや情報伝達体制の不備など、大小のガバナンスの劣化は、そうした歴史的な累積の上に生じたのである。国と組織とひとの復元は、まさしくこの報告書をたたき台に進められなければならない。
    ◇
 ディスカヴァー・トゥエンティワン・1575円/著者は一般財団法人日本再建イニシアティブが設立した民間事故調。

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