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股間若衆―男の裸は芸術か [著]木下直之

[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)

[掲載]2012年05月13日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■別の鑑賞法でがぜん面白く

 駅前や公園に立つ裸体彫刻を見るたびに「なぜこのようなものがここに?」と不思議に思っていた。申し訳ないが、全く芸術的感動が無いからである。しかし本書を読めば見方が変わる。いや、芸術的価値に目覚めるわけではない。全く別の鑑賞法に気付いてがぜん面白くなるのだ。まず股間に注目する。それこそが、日本彫刻史の要だった。明治四十一年に初めて男性裸体の彫刻が日本に出現する。ギリシャローマ彫刻の歴史的土台がないところに突然裸が現れるわけだから、作る側は西欧崇拝でも、人々はどこを見ればよいかわからなかったろう。その都度警察が来る騒ぎとなる。その結果、股間は曖昧(あいまい)な形になる。「股間若衆」「駅前四天王」「曖昧模(も)っ糊(こ)り」というステキなキャッチフレーズと実に愉快な文章に、笑いを抑えられない。やがて近代日本美術史の基礎知識が身につき、赤羽や前橋駅に下りたくなり、ついに社会における表現と規制の関係に思いを致す。実にお得な本である。
    ◇
 新潮社・1890円

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