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ドキュメント テレビは原発事故をどう伝えたのか [著]伊藤守

[評者]上丸洋一(本社編集委員)

[掲載]2012年05月20日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝 新書

表紙画像

■いつ、誰が、何を話したか検証
 
 福島の原発事故とメディアを考えるうえで重要な本だ。この本の出現によって私たちは、テレビの原発事故報道を、単なる印象や記憶ではなく、事実に基づいて批評、批判することが可能になった。
 主な分析対象は、東日本大震災が起きた昨年3月11日から17日までの原発事故報道。どのテレビ局で、いつ、誰が、どんな話をしたか、事故の推移にそってたどる。
 特に「誰が」について、実名を出して責任の所在を明らかにした意味は大きい。アナウンサーであれ、解説をした専門家であれ、テレビだからといって言いっぱなしでは済まないはずだからだ。
 3月12日朝5時44分、政府は周辺住民への避難指示を、それまでの半径3キロ圏内から10キロ圏内へと拡大した。
 7時31分、NHK「場合によっては、放射性物質が外に漏れ出す可能性もないわけではないので、拡大したわけです」「人体に大きな影響を与えることはないだろうと考えています」(東大教授)。
 その朝、福島原発がある大熊町では、防護服を着た警官が住民に「早く逃げろ」と指示を出していた。
 12日午後3時36分、1号機が爆発した。
 13日午後5時、TBS「あの原子炉はもう使えないんですけれども、それでも(放射性物質を)閉じこめるという最低限の安全を維持したというのは、これはすばらしいことではないかと思います」(東大特任教授)。
 放射性物質が飛散するさなかに、専門家はそう語った。
 テレビは原発の危険性を「危機的な事態に至っても覆い隠そうと」した、むしろ危機ゆえに「なおさら」覆い隠そうとした、と著者はみる。
 中央のテレビ各局は自局の記者に原発から30キロ圏内へ入らぬよう指示しつつ、「放射線は微量。健康に害はない」と人々に伝え続けたという。自らの報道を検証する番組の制作を各局に求めたい。
    ◇
 平凡社新書・819円/いとう・まもる 54年生まれ。早稲田大学教授(社会学、メディア・スタディーズ)。

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