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健康不安と過剰医療の時代―医療化社会の正体を問う [編著]井上芳保

[評者]田中優子(法政大学教授・近世比較文化)

[掲載]2012年05月27日

[ジャンル]医学・福祉

表紙画像

■「何かおかしい」と思う人に

 現代は江戸時代より「進化」していると言われる。進化のシンボルが科学技術の発展である。確かに江戸時代までは高度医療も保険制度もなく薬は高かった。であるから病気にならないことが重要で、「養生」が生活の上で大切な役目を果たしていた。
 一方、今の日本では薬は満腹になるほど出してくれるし、レントゲンやCTは無制限に撮ってくれる。が、何かおかしいと常々思っていた。薬の処方や治療は最後の手段だろう。不安感だけで治療する必要はあるのだろうか? 本書はその疑問に答えてくれた。ずばり「健康不安」と「過剰医療」を暴いている。
 日本で癌(がん)にかかる人の三・二%は放射線による診断被曝(ひばく)が原因と推定され、検査回数も調査した十五カ国平均の一・八倍である。必要とされない多くの事例でCTが安易に使われているからだという。血圧が高い人に処方される降圧剤も、実は脳梗塞(こうそく)につながりやすい。コレステロールの薬も骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の薬も不要な場合が多く、副作用をともなう。バリウムによる胃の検査が本当に安全かどうかは分かっていない。うつ病という診断結果の急激な増加は、向精神薬の解禁と連動している。さらに、病気でない人にお金を使わせるには「健康不安」という武器がある。「メタボ」はじめありとあらゆるものに警告が発せられ、健康商品が大量に消費されている。本来は「ストレスに強い」ことを強要する社会の問題であるにもかかわらず、それは問題としないで医療に金を使わせる構造になっているのだ。本書は、そのような多くの事例が語られている。
 本書には賛同する人もしない人もいるだろう。しかし、頭の片隅で「何かおかしい」と思っている人は多いのではないか。医療の過剰を問題化してゆく必要性が高まっているというのが、この本の編集意図だ。ようやくそういう時が来た。
    ◇
 長崎出版・2310円/いのうえ・よしやす 56年生まれ。札幌学院大学元教授(臨床社会学)。同氏ら8人で執筆。

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