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若者の気分 少年犯罪〈減少〉のパラドクス [著]土井隆義

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2012年05月27日

[ジャンル]社会

表紙画像

■統計を検討、情緒的議論と決別

 20世紀最後の数年、少年による凶悪犯罪が散発し「少年犯罪の増加!」と騒ぎになった。しかし長い目でみて減少傾向が明らかと分かると、世の論は少年犯罪の凶悪化、再犯の増加を問題にする方向に横滑りしていった。今ではどれも現実にそぐわないと分かっているが、2010年の内閣府調査では75%もの回答者が「重大な少年犯罪が増えている」とした。
 著者は丁寧に統計を検討し、誤解を解きほぐす。更に諸外国では犯罪増に直結する失業率が日本でも高まっているのに、少年犯罪が最低レベルであることにパラドックスを見いだす。このような視点は従来の論を見聞きしてきた者には意外だろう。しかし事実だ。むしろ、本書の真骨頂は「パラドックス」に社会学的分析を試みる点である。
 キーワードは「宿命主義的人生観の広がり」「人間関係の自由化」など。前者は現状を素直すぎるほど受け入れる態度。後者は、社会があまりに自由になったため、むしろ仲間との絆を求め、空気を読んで自分が浮かないようにする態度につながる。「私(個性)探し」から「友だち探し」へ。ちなみに凶悪犯罪がかつて究極の個性だったことは、神戸連続児童殺傷事件(1997年)に続いた少年事件の聞き取りから分かる。しかしこんな極端な個性はもう誰も欲しくない。少年犯罪は減少し、90年代の特異な事件の再来も抑制される……。
 社会学に暗い評者には判じがたい部分もある。また描かれた若者像を固定的に捉(とら)えるのは危険だろう。検証し先に進むには、社会と犯罪の分野で因果関係の解明を目指す社会疫学、犯罪疫学を視野に収めるべきだとも感じた。
 いずれにしても安易な若者叩(たた)き言説と距離を取り「今」と真摯(しんし)に向き合う議論をさりげなく実現している点がよい。私たちの社会に跋扈(ばっこ)してきた情緒的若者論との決別のきっかけとなることを期待する。
    ◇
 岩波書店・1680円/どい・たかよし 60年生まれ。筑波大学教授。著書に『「個性」を煽られる子どもたち』など。

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