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星に願いを、月に祈りを [著]中村航

[評者]

[掲載]2012年05月27日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 誰にでも一つくらい、セピア色に風化せず、みずみずしいまま心に息づく思い出があるだろう。この小説の冒頭で小学生3人が経験するキャンプの夜の冒険のような。思いをうまくかたちにできない子供の不安定で研ぎ澄まされた感覚を、大人の言葉で上書きせず、鮮やかに切り取ってみせる。
 その夜、闇の中で耳にした謎のラジオ放送が、全編を貫くモチーフとなる。ある出来事をめぐって起こりうる二つの道が、現実と幻との境をあいまいにしたまま進み、やがて一つの未来へと収束していく。ファンタジー仕立ての成長物語にこだまし続けているのは、夜空を飾る星の数ほどもある命一つひとつへの、限りない愛惜の念である。
    ◇
 小学館・1680円

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