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探求―エネルギーの世紀〈上・下〉 [著]ダニエル・ヤーギン

[評者]原真人(本社編集委員)

[掲載]2012年05月27日

[ジャンル]科学・生物 社会

表紙画像

■地球規模で描く一大叙事詩

 エネルギー問題の権威ダニエル・ヤーギンが久々に大作を世に出した。ピュリツァー賞を受賞し世界的なベストセラーとなった『石油の世紀』から20年。エネルギーの一大叙事詩を紡ぎ出すスケールの大きさは、相変わらずだ。
 当時『石油の世紀』を書くきっかけになったのはチェルノブイリ原発事故と湾岸危機だった。それと相似を成すように、今回の著書は、福島第一原発事故と「アラブの春」によるエネルギー事情の激変が端緒となっている。
 歴史の縦軸、地球規模の横軸を思い切って広げ、登場人物は多彩、興味深い話題も満載で期待を裏切らない。
 例えば、テキサス州で30年前、誰も見向きもしない天然ガス層の破砕技術開発を始め、もうかりもしないのに頑固に取り組み続けたジョージ・ミッチェル。彼が生み出したノウハウは近年花開き、天然ガス(シェールガス)革命を引き起こす。それが今や、世界のエネルギー安全保障の地図を塗り替えつつある。
 今回も間違いなく、世界のエネルギーを論じるのに欠かせない一級の資料だ。ただ、読者の期待はそこにとどまらないに違いない。目の前の関心事は原発再稼働問題だ。液化天然ガスの輸入急増で貿易赤字に転落し、その影響は日本経済全体に広がる。将来のエネルギーのあり方はどうあるべきか、そのヒントを知りたい読者も多いだろう。
 『石油の世紀』でヤーギンはエネルギーの主な選択肢として(1)化石燃料(2)原子力(3)省エネをあげ、原子力ルネサンスの到来もほぼ正確に見通した。「われわれの世紀は依然として石油の時代」というのも正しかった。
 「いま」はどうか。事故後の原発を取り巻く環境は一段と厳しい。それでも20年後も、原発を含めさまざまな選択肢を抱え続けなければいけないエネルギーミックスの時代が続く、というのが大家の下した結論である。
    ◇
 伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社・各2415円/Daniel Yergin 著書に『石油の世紀』『市場対国家』など。

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