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近代仏教という視座―戦争・アジア・社会主義 [著]大谷栄一

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2012年05月27日

[ジャンル]歴史 人文 ノンフィクション・評伝

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■様々な潮流と合流した歩み

 古代以来、日本人の精神に大きな影響を与えてきた仏教。しかし、「仏教」という概念が定着したのは、近代に入ってからである。西洋によって「宗教」(レリジョン)という概念が持ち込まれ、宗派を超えた統一的単位としての「仏教」が明確に自覚されるようになった。「宗教」という概念の中核には、どうしてもキリスト教(特にプロテスタント)の影響が反映されている。個人の信仰を基礎とし、儀礼的な要素を排した信仰形態は、「宗教」をビリーフ(信念の体系)中心的に規定し、プラクティス(実践)の側面を捨象した。
 大谷は、等閑視されてきたプラクティスの側面を包摂する「広義の近代仏教」を論じる重要性を提起しつつ、ビリーフ中心的な「狭義の近代仏教」がたどった軌跡を明らかにする。
 明治20年代、「新しい仏教」を掲げる運動が活発化した。旧仏教界を批判し、社会参加や内的信仰を重視する「新しい仏教」運動は、「青年仏教徒たちによる異議申し立てのユースカルチャー」として拡大した。ここで確立された「狭義の近代仏教」は多元的な展開を遂げていく。
 中でも大きな影響力を持ったのが、田中智学の日蓮主義運動だった。智学は国民と国家の統合を世界人類の統一へと敷衍(ふえん)し、仏国土という理想社会の実現を構想した。彼の運動は、高山樗牛や石原莞爾、宮沢賢治らに熱狂的に支持され、影響は血盟団事件を首謀した井上日召にまで及んだ。一方で、同じ日蓮主義者でも「新興仏教青年同盟」を率いた妹尾義郎は、反戦・反ファシズムの仏教社会運動を展開し、利己的な資本主義の変革を求めた。
 反戦平和から超国家主義まで、様々な思想潮流と合流した近代仏教。宗教の社会的役割が見つめ直される現在、近代仏教の歩みをたどることは、極めてアクチュアルな作業となるだろう。
    ◇
 ぺりかん社・5250円/おおたに・えいいち 68年生まれ。佛教大学准教授。著書に『近代日本の日蓮主義運動』など。

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