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昭和史を陰で動かした男―忘れられたアジテーター・五百木飄亭 [著]松本健一

[評者]出久根達郎(作家)

[掲載]2012年05月27日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■『坂の上の雲』に登場しない訳

 「乏しきを分(わか)ちつくして除夜の鐘」。作者の五百木飄亭は、「文学に於(お)ける一種の天才あり」と正岡子規が評した、子規の俳句仲間であり、ベースボールの友であった。飄亭が日清戦争に召集され、戦地から「従軍日記」を新聞に連載した。この名文にそそられて、子規は従軍記者を志望する。子規が心を許した友でありながら、司馬遼太郎の『坂の上の雲』には、名前さえ出てこない。なぜだろうか。
 著者はこの謎を解明すべく、飄亭という人物の生涯を追う。五百木飄亭の名は、俳界では知られていたが、詳細な伝記は無かった。本書は初めての、飄亭伝である。
 文学を離れて政客(せいかく)とつきあうようになった飄亭を、子規はいさめる。しかし飄亭は聞かぬ。彼はいわゆる「浪人」となって生涯を送る。憂国の浪人である。国士の身上は、豊富な逸話だ。惜しむらくは飄亭にはそれが乏しい。影の薄い国粋主義者なのである。
 司馬氏が小説の人物に使わなかった理由ではなかろうか。
    ◇
 新潮選書・1680円

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