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ジェミア&J.M.G.ル・クレジオ「雲の人びと」書評 サハラ砂漠、家族の帰還の物語

評者: 川端裕人 / 朝⽇新聞掲載:2012年06月03日
雲の人びと 著者:ジェミア ル・クレジオ 出版社:思潮社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784783727590
発売⽇:
サイズ: 20cm/156p 図版9枚

雲の人びと [著]ジェミア&J・M・G・ル・クレジオ

 表題の「雲の人びと」はモロッコ最南端のサハラ砂漠で雨を追い生活する一族。作家の妻の祖父母が出た部族であり、よそ者には近寄りがたい遠隔地「赤い川」の涸(か)れ谷を本拠とする。長年夢見ながら、戦乱に阻まれ叶(かな)えられなかった「2世代ぶりの里帰り」を描く。
 妻の祖父母がラクダと共に歩き通した地を四輪駆動車で遡(さかのぼ)り、作家は砂漠に魅せられる。砂以外何もないようで、実は多様な人々が往来し築いた砂漠の文明、祖先も当事者だった戦争、更には有史以前の地質学的な変遷……。
 固有の場所を語りながら普遍に接続する紀行文学のだいご味は、極めて個人的家族的な旅であるが故に深みを得る。始まりの地と言える巨岩から谷を見渡し、一族と砂漠、地球と文明の歴史の重層性を見つつ、結局これは家族の帰還の物語だ。作家は述べる。「本当の帰還というのは……世界の果ての谷の中であなたを待っている人に出会うこと」だと。
    ◇
 村野美優訳、思潮社・1890円