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アートを生きる [著]南條史生

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2012年06月03日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■熱い現代美術愛、34年の回想

 「アートは大事だ、心の糧だ」と言い続けてきたキュレーターが、現代美術に対する34年間の愛の実践的足跡を回想した半生の記録である。面白いアートがあると聞けば即、機内の人となって世界中どこへでも飛んでいくその好奇心と直感的行動力はエネルギッシュと言うしかない。
 著者が国際交流基金に入った頃は日本の現代美術はまだ極東の辺境に甘んじていた。そんな時期の1977年に著者はドイツで見たヨーゼフ・ボイスに「圧倒的な衝撃」を受け、彼を日本に招聘(しょうへい)しようとして行き違ってしまう。
 ボイスと決別した著者は元来、「遺跡」を原点としており、「アートの明日のピラミッド」を発掘する旅に立つ。海外で国際展を組織しながら日本のアーティストを世界に送り出し、一方、国内では基金を辞め、ICAナゴヤを舞台にヨーロッパの巨匠たちを紹介して日本のアートシーンに刺激と体力を与えつつアメリカにも視座を移していく。
 90年になって著者はアートの座標軸をパブリックアートへと移行しながら都市と建築とアートの対話を演出。そして「空間に対する美的・造形的回答」を探り始める。
 さらにヴェネツィア・ビエンナーレのキュレーションやコミッショナーを経て、同ビエンナーレの国際審査員となったMr.NANJOの環境はあわただしく巡り、現在は森美術館の館長として、彼の未来予測を現実化させている。世界の眼(め)が日本から韓国、中国へとシフトする中、彼はインド、インドネシア、中東、ブラジルへと「先手を打ち」ながら目下中東展を準備中だ。
 そして「現代アートはわからない、難しい」という人にも、幸福とは、平和とは、生とは、死とは、という人間存在の核にあるものとしてのアートを示し、アートという名のメフィストの魔性の力を得たファウストのように、アートの魔界の扉をさらに開き続けていただきたい。
    ◇
 角川書店・1890円/なんじょう・ふみお 49年生まれ。森美術館館長。『美術から都市へ』『疾走するアジア』など。

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