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エリア51―世界でもっとも有名な秘密基地の真実 [著]アニー・ジェイコブセン

[評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)

[掲載]2012年06月10日

[ジャンル]社会 国際

表紙画像

■隠し事はどこまで許されるか

 ラスベガスから北に1時間ほど車で走ると米国最大の政府管理区域・ネリス試験訓練場に辿(たど)り着く。面積は新潟県とほぼ同じ。空軍基地や核実験場が置かれている。
 そのなかでひときわ謎に包まれているのがエリア51と称される軍事施設だ。衛星写真では存在が確認されているが、米政府は認めておらず、政府作成の地図にも一切記載がない。
 UFOの墜落や宇宙人の遺体回収で知られるロズウェル事件の舞台といえばピンとくる方も多いだろうか。「アポロ11号の月面着陸の映像は実はエリア51に組まれたセットで撮影された」といった陰謀論も後を絶たない。
 著者はある日、親族の集まりの席で、遠戚の物理学者がエリア51で働いていたことを知り驚愕(きょうがく)する。つてを頼りながら、同施設内に居住・勤務していた32人を含む関係者の取材に成功した。
 そこに、1990年代以降、CIAや軍部によって一部機密解除された情報を重ね合わせながら、秘密基地の実態に迫ったのが本書だ。昨春刊行された原著は全米ベストセラーになると同時に、さまざまな論争を巻き起こした。
 キューバ危機の舞台裏や米ソの諜報(ちょうほう)合戦など、冷戦時代の軍事秘史が次々と明らかにされ、吸い込まれるかのように一気に読破した。とくにロズウェル事件の“真相”には戦慄(せんりつ)すら覚える。
 しかし何より驚いたのは、エリア51で行われている極秘の軍事科学技術プロジェクトについては「知る必要がないこと」として大統領にすら開示が拒まれてきた点だ。
 たしかに政治家は私的な意図をもって関与してくるかもしれない。大統領とていずれは私人に戻る存在だ。
 国家の安全を守るためには、どこまで隠し事は許されるのか。民主主義と安全保障のあいだに横たわる本源的な緊張関係について改めて考えさせられる。
    ◇
田口俊樹訳、太田出版・2520円/Annie Jacobsen 調査報道ジャーナリスト。米国ロサンゼルス在住。

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