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ビル・アンダーソンの昭和史 [著]ウィリアム・S・アンダーソン

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年06月10日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■日本軍捕虜から企業トップへ

 太平洋戦争の期間、日本軍の捕虜となっていた元英国兵の自分史である。戦後はNCR(ナショナル・キャッシュ・レジスター)社のビジネスマン、そして経営者として20世紀後半のある時期まで、同社の経営にあたり、幾つかの斬新な企業内システムを確立した人物として知られている。従って本書は、この二つのいずれかに関心を持つ者向きの書といえる。
 中国の漢口、香港で育ち、教育を受けた英国人で、開戦直後の香港作戦の折、日本軍に降伏する。本書の3分の1は、捕虜としての屈辱、飢餓、強制労働、それに暴力への怒りの記述だ。香港、名古屋、富山と回され、ときに棍棒(こんぼう)で顔が血だらけになるまで殴打する元軍人にも出会う。
 むろん密(ひそ)かに優しさを示す職員もいる。8月15日以後は殴打者は脅(おび)える一方、歓送会を開いてくれる職員もいた。戦後の日本NCR会長時には多様な日本人の表情に出会うが、筆調の底に複雑な感情が見え隠れする。そこが辛(つら)い。
    ◇
森山尚美訳、原書房・2520円

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