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居心地の悪い部屋 [編訳]岸本佐知子

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)

[掲載]2012年06月17日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■想像力に食い入る創造的短編集

 タイトルどおり、相当な居心地の悪さ。奇妙で不気味な短編ぞろいで、ここまでそろうと「おみごと!」と叫びたくなる。暴力的シーンの連続、というような悪趣味な恐ろしさではない。むしろ人間という生きものの本質的な不可解さを、短い場面で鮮やかに切り取って見せてくれている。その一方で、登場人物に関する謎が後をひき、いつまでも頭を離れない。
 たとえばバドニッツの「来訪者」という作品で、娘の家を訪ねようとハイウエーをひた走っていく父と母。行けども行けどもたどり着けないそのドライブ自体が人間の迷妄の象徴なのか。あるいは、ヴクサヴィッチ「ささやき」の主人公。鍵をかけたはずの自宅の寝室で、見知らぬ男女に遭遇してしまうのは何故だろう。
 続きを考えずにはいられなくなり、変な夢をたくさん見てしまった。読者の想像力にしつこく食い入ってくる、創造的な短編集。こんな本を編める訳者が、ちょっぴり羨(うらや)ましい。
    ◇
角川書店・1680円

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