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雪まんま [著]あべ美佳

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2012年06月24日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■地域と食を軸、未来への応援歌

 雪まんまは米の品種。低水温に耐えるので、東北地方の山間にも適し食味もよい。主人公ゆきは故郷の稲作を救うため試験栽培に成功し、品種登録にこぎ着ける。もちろん現実には存在しない架空の米だ。
 と書くと品種登録の苦労を軸にしたふるさと活性化物語と響く。間違いではないが、作品の焦点は少し違うようだ。
 宮城県山間部の農家に生まれたゆきは、大学卒業後、小学校の教員を目指していたものの、ある大事件をきっかけに、米作りへの思いを募らせ祖父の田んぼを継ぐと決める。父はすでに稲作に見切りをつけ役場に勤めており、娘に苦労させたくないとの考えから家族内でも対立が鮮明になる。離農者が増えている地域でも、この対立は別の形で立ちはだかる……。とすると今度は家族や地域の対立を乗り越えての成長物語としての面が強調される。しかし、それだけ、でもない。もっと大きな構えが作品にはある。
 新品種申請に訪れた県庁で、「田んぼは、農家のためだけの土地じゃないんです。その地域全体のため」と述べる部分が印象に残る。確かに手入れされた田園風景は、地域全体の資産だ。田が荒れると眺望は台無しになる。観光の観点からは経済的な影響すら持つ。更に「わたしたちが勝てたとしても、他の産地は負ける」と、「地産地消を超えた、地域全体で支え合う」仕組みを構想し、いわば百年の計を語る。その様(さま)は、まさに「未来への応援歌」だ。
 初出は日本農業新聞での連載。最終回は2011年3月12日! その後1年以上かけての刊行だ。ゆきが稲作を志す動機となった大事件に3月11日の大震災を置くなど、物語の骨格に関わる部分に手を入れている。震災について小説がまだ多くを語り得ていない現状で、地域と食を軸に、大きな構えで小さな物語(小説)を紡ぐ試みでもある。
    ◇
NHK出版・1680円/あべ・みか 71年、山形県の専業農家に生まれる。本作が長編小説デビュー作。

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