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中脇初枝「きみはいい子」書評 言葉のぬくもりがじんと広がる

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2012年07月01日
きみはいい子 (ポプラ文庫) 著者:中脇 初枝 出版社:ポプラ社 ジャンル:一般

ISBN: 9784591139752
発売⽇: 2014/04/01
サイズ: 16cm/329p

きみはいい子 [著]中脇初枝

 扉の向こうから「どすん」と音がする。ある町を舞台にした連作短編集には、全編を通して虐待の気配がある。食事は給食だけ、夕方5時まで帰ってくるなと怒られるという男の子。出かける時に笑顔を装着し、帰宅した瞬間、幼い娘に怒りをぶつける母親。このつないだ手を離せば、認知症の母を捨てられると思う中年の娘。男の子の担任である「ぼく」は崩壊しつつあるクラスで「家族に抱きしめられてくること」という宿題を出す。宿題ができなかった男の子に「ぼく」はそうっと手を伸ばす。虐待はだめ、と声高に叫ぶわけではない。筆致は淡々としていて、だからこそ「きみはいい子だよ」という言葉のぬくもりがじんと広がる。
    ◇
ポプラ社・1470円