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群像としての丹下研究室 戦後日本建築・都市史のメインストリーム [著]豊川斎赫

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2012年07月01日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■「構想力」支えた最強チーム活写

 建築家を語る本は通常、造形デザイン話に社会文明観や哲学談議を接ぎ木する程度だ。本書はそれを遥(はる)かに超える。本書のテーマたる丹下健三が、通常を遥かに超える建築家だったせいもある。彼は個別建築にとどまらず、都市、地域、国土設計にまで大きな足跡を残した。だがなぜそれが可能だったのか?
 通常はこれを「壮大な構想力」という一言ですませてしまう。本書の手柄は、その「構想力」の中身を詳細に示したことだ。丹下の構想力の背後には、地域経済の数理統計分析や産業予測があり、それを造形に変換する方法論の開発があったのだ。
 それを支えたのは、東大の丹下研究室に集った人々だった。本書はこのチームに着目することで、丹下健三の核心に迫る。彼らが丹下の各種設計の裏付け研究を大量に生産したからこそ、その造形が実現できたのだ。
 特にポストモダン以降、建築デザインの一部は空疎で無意味な形態のお遊びに堕している。だが丹下研は形態のすべてに意味と裏付けを持たせようとした。それが彼の構想力の力強さを生んでいる。それを支えるべくあらゆる分野の最先端をカバーするチームの総合力もすごい。本書にはぼくの直接の先生も数人登場するが、その活躍ぶりを読むと自分の大学院時代の不勉強ぶりに忸怩(じくじ)たる思いだ。
 疑問は残る。なぜ丹下研にそれができたのか。この実質的な個人設計事務所を国立大学の研究室として国庫補助で運営する異様な体制がなぜ許され、なぜ実際の国土や都市設計に大きく関与できたのか? ともあれ本書を読むと、いまの建築家や各種プランナーたちの構想力欠如は改めて痛感せざるを得ないが、それが才能の問題ではなく、総合への努力と積み重ねを怠った結果にすぎないことも、本書は示唆している。あの丹下健三にしてこれだけのチームが必要だったのだから……。
    ◇
オーム社・4200円/とよかわ・さいかく 73年生まれ。建築歴史意匠。国立小山高専建築学科准教授。

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