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和解せず [著]藤田宜永

[評者]

[掲載]2012年07月08日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 義肢装具士や装蹄(そうてい)師、獣医師に樹木医……。著者の小説には、傷ついた生命や身体を癒やす職業の男がしばしば登場する。彼らの多くが、目の前の女を丸ごと崇敬することができず、代償のように己の仕事と誠実に向き合う。その結果、半ば職人小説の趣を呈することも。本書は違う。主人公伊木章吾はクラシック音楽のプロモーターだが、政治家の父との確執の果てに行きついたなりわいは欲にまみれている。息子を愛しつつ許さぬ父はワーグナーの「ニーベルングの指環」に登場する神、ヴォータンを思わせる。世界的歌手となって現れたかつての恋人は父の子なのか。人間の暗部をハードな文体で織り出したフジタ版「読むオペラ」。
    ◇
光文社・2100円

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