書評・最新書評

文化系統学への招待―文化の進化パターンを探る [編著]中尾央・三中信宏

[評者]川端裕人(作家)

[掲載]2012年07月15日

[ジャンル]人文

表紙画像

■絵巻伝本や社会組織の研究も

 系統樹と聞くとまず生物進化を想起する。共通先祖から枝別れしていく、樹(き)を思わせる図は有名だ。最近、系統探求の方法を生物以外に使う動きが盛んになり「文化系統学」の旗が掲げられた。
 注釈が必要だ。実は進化論より古くから別の分野で系統学があった。文献学や歴史言語学で磨かれてきた、写本や言語の系統を明らかにする方法がそれだ。それらは驚くほど似たものに収斂(しゅうれん)しており、一般的な科学の方法として認識すべきだという。
 アブダクションという推論法が重視される。手に入る限られた知識を、最もよく説明する理論を採用する。例えば恐竜の系統は既存の化石から推し量る。新しい化石が発掘されると、当然再検討される。物理法則的な厳密性には欠けるが、絶えず最良の仮説を探し、新しい証拠が出れば更新する点でやはり科学的だ。
 本書で語られるのはこの推論法を用いた多様な系統学。「百鬼夜行絵巻」研究では数ある伝本の絵画間距離を数値化し系統を解明した。DNAの塩基配列から系統関係を導く現在の進化生物学に似る。オセアニア社会組織の研究では、首長の有無など社会制度の複雑さの系統関係に切り込む。明治時代の「擬洋風」建築の系統の検討も興味深い。
 統一的視座の提供という意味で「系統樹思考」を示しつつ、系統樹の一般型はネットワーク型だとの指摘で「その先」を見据える。生物に交雑があるように、言語や写本にも別系統の合流があり、厳密な樹状にはならない。これをどう処理していくか……。
 評者は、編者が言う「文理の壁」の問題に惹(ひ)きつけられた。文化系統学は、現在、進化生物学の応用と考えられており「文側」への普及には壁を乗り越えなければならない。しかしもともと学問に「壁」などなかったと系統学の歴史が示している。壁を破壊してやろうという心意気も透けて見える。
    ◇
勁草書房・3360円/なかお・ひさし 日本学術振興会特別研究員 みなか・のぶひろ 農業環境技術研上席研究員。

関連記事

ページトップへ戻る