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絵はがきの別府―古城俊秀コレクションより [著]松田法子 [監修]古城俊秀

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2012年07月15日

[ジャンル]歴史 アート・ファッション・芸能

表紙画像

■画像で辿る、温泉都市の発展

 明治30年代から昭和初期に黄金時代を迎えた「写真絵はがき」は、写真による画像記録がまだ少なかった時代の風景を、奇跡的に保存した貴重な素材でもある。だが、なにせ土産物や消耗品扱いであったため、これを史料として活用する機運が生まれにくかった。
 本書は、日本一の温泉都市であった別府(大分県)の威容を、観光地に最もふさわしい絵はがき画像によって再現しようとする試みだ。絵はがきをここまで徹底的に読み込んだコレクターと研究者の熱意に打たれる。
 昭和9年に丹那トンネルが開通し熱海(静岡県)が急成長するまで、敵なしの大歓楽都市として君臨した別府も、明治初期には長い砂浜で地引き網漁が行われる静かな漁村だった。火葬場なども設置されている。しかし西洋の健康医学の影響で温泉浴や海水浴が奨励されだすと同時に、港湾と定期航路が設置され、一気に大型旅館や観光施設が林立するリゾートと化した。
 相場師で宣伝マンでもあった油屋熊八らの活躍、国際規模の博覧会、さらに日本陸海軍の療養施設ができ高級料亭や遊郭の発展に至るといったプロセスを絵はがきで辿(たど)れば、各画像に付された丁寧な解説を助けにして、誰でも思いがけない発見ができる。
 一例だが、大阪の福神ビリケンが別府にもあったこと、山本五十六以下海軍相手の料亭が繁栄し、絵はがきにも芸者さんの温泉浴、海水浴姿が登場してくること、奈良の大仏を抜く「世界一の大仏」があったこと、そして怪建築「ひょうたん型の大展望塔」を持つ温泉宿など、興味深い珍景に驚かされる。
 絵はがきで重要なのは写真の撮影時期を特定することだが、その方法も簡潔に伝授され、絵はがき収集の基礎ガイドとして使える。
 各地各都市に一冊は作成してほしい、近代史の楽しい画像研究だ。
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左右社・3675円/まつだ・のりこ 78年生まれ。東大大学院職員 こじょう・としひで 41年生まれ。元郵便局員。

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