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非業の生者たち 集団自決 サイパンから満洲へ [著]下嶋哲朗

[評者]上丸洋一(本社編集委員)

[掲載]2012年07月22日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■「強いられた自発性」が死へ

 「非業の」と言えば「死」と続くのがふつうだろう。しかし、この本の題は「非業の生者たち」。戦争中、「集団自決」で死の寸前まで追い込まれながら、かろうじて生き延びた人々に取材して書かれたノンフィクションだ。
 著者は、黙して語ろうとしない「生者たち」のもとに通い、その現場で何が起きたかを聞き出し、記録してきた。その30年近くにわたる営為を本書に結実させた。
 沖縄・読谷(よみたん)村のチビチリガマ、サイパン島のバンザイ岬、グアム、テニアン、フィリピン、中国東北部(旧満州)の葛根廟(かっこんびょう)。
 それらの地で、多くの民間人が、それぞれの家族単位で自決した。敵兵は、女を大勢で陵辱し、男と子どもは股裂きにする。そう聞いていた人々は、「虜囚の辱め」をうけるよりは、と死を選んだ。人々が恐れた「敵の残虐行為」は、日本兵が現に中国などでしてきたことの投影であり「写し絵」だった。
 何が人々を集団自決に駆り立てたのか。著者は、明治以来、日本人の内面に刻み込まれた「強いられた自発性」に着目する。強制だけでなく、自発性だけでもない、「強いられた自発性」。集団自決は「世界に例を見ない、日本人特有の死の形」だった、と。
 「私たちがいないあと、誰が私たちを語るのでしょうか?」
 著者は、沖縄県糸満市にあるひめゆり平和祈念資料館の館長を務めた本村つるさんの右の言葉を引き、「『戦争体験を語り継ぐ』というその根源の意味を突きつける言葉」だと書いている。
 「あなたには、私を本気で聞く準備ができているのですか?」
 初対面の証言者に、著者はまた、そう問われたことがあるという。
 では、私たちは「生者たち」の言葉に何を読みとるのか。読者もまた、そんな問いの前に立たされる。
    ◇
岩波書店・2940円/しもじま・てつろう 41年生まれ。ノンフィクション作家。『平和は「退屈」ですか』など。


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